秋になると、ふとした瞬間に漂ってくる甘くてやさしい香りに、思わず足を止めてしまうことがある。それが金木犀の香りだと気づくと、なんとも言えない懐かしさが胸に広がる。特に、実家近くの公園の通りに咲いていた金木犀のことを思い出すと、まるで時間が巻き戻されたかのように、子どもの頃の記憶が鮮やかによみがえる。
あの公園は、家から歩いて数分のところにあってイベントが行われる場所だった。広場の周りには、季節ごとに違う花が咲いていたけれど、秋になると一際存在感を放っていたのが金木犀だった。オレンジ色の小さな花が木いっぱいに咲き、風が吹くたびにその香りがふわっと広がる。

やがて大人になり、実家を離れて暮らすようになってからも、秋になるとどこかで金木犀の香りに出会うことがある。そのたびに、あの公園の通りを歩いていた自分を思い出す。ランドセルを背負って、落ち葉を踏みしめながら帰る道。夕方の少し冷たい空気と、金木犀の甘い香りが混ざり合って、なんとも言えない安心感を与えてくれていた。
もちろん、今住んでいる街にも金木犀は咲いている。でも、あの実家近くの公園で感じた香りとは、どこか違う気がする。香りそのものは同じはずなのに、記憶と結びついているせいか、あの場所でしか味わえない特別なもののように感じるのだ。変わらない香りに包まれながら、しばらく立ち止まって昔のことを思い出す。
季節の移ろいを感じる瞬間はたくさんあるけれど、金木犀の香りほど、記憶を鮮やかに呼び起こすものはないかもしれない。香りというのは不思議なもので、目に見えないのに、心の奥深くにある感情や思い出をそっと引き出してくれる。だからこそ、あの公園の金木犀は、私にとってただの花ではなく、秋の記憶そのものなのだ。

